「 流通業のブランド化とは? 」 —ブランドはメーカーだけのものなのか?—

2000年5月に書かれたもの


■ブランド重視の時代

ブランドの重要性が叫ばれているが、小売・流通業という販売の最前線では今だにピンとこないのはなぜだろうか? それには二つの理由が見受けられる。一つは、流通という販売自身は無形ののモノであり、バックのプラダやスポーツ・ウエアのナイキなどに比べて何かブランドとは言い難いところがある。


もう一つは、日々の販売予算の達成に追われ、流通チェーン全体や店舗全体をブランドとして捉えるどころではない、といった業務推進を中心に物事を考える傾向である。


だが、よく見てみれば、前者の「無形なものはブランドに馴染まない」という理由も、宅配便のヤマト運輸の「宅急便」やガン保険の「アメリカンファミリー」などといったサービス業でも十分、ブランドが成立している。また、後者のような理由を簡単に否定するのが小売業特有のブランド、FCビジネスである。コンビニエンスストアの代名詞にまでなった「セブンイレブン」やファミリーレストランの「すかいらーく」も、それぞれブランドなのである。


実は既に多くの企業が強いブランドを築こうとしてきた活動を、ブランド・マーケティングという観点から覗いていなかっただけの話なのである。


このように流通業もブランドという角度から考え直す時期なのであるが、それを三つの潮流が教えてくれる。


一番目の潮流は多くの市場が成熟化していることである。成長志向の流通業は元々薄利多売であった。しかし、成熟化は多売にブレーキをかけ、薄利だけを残すようになってきた。


二番目の潮流はグローバル化である。今までは競争相手が誰であるかははそこそこ見えていたし、打つ手も読めた。ところが、外資系のM&Aによる参入や、インターネットによるメーカー直販などによって店舗網や商圏という既存の資産だけの競争を否定する。


三番目はロングセラーの必要性である。新しい業態や店舗を展開しても陳腐化する期間が速くなり、投資の回収が難しくなってきている。これは新規の顧客を大きく集めることよりも、既存の顧客によるリピート購入の方が効率的になって来ていることであり、広い意味で流通もロングセラーになるための工夫が必要になってきている。そして、この三つの流れに答えようとする一つの方向がブランドなのである。


■ブランド価値とは?
それでは、ブランドとは何なのだろうか? 【表】はブランドを価値の集合体=「消費者が見合うだけのお金を払ってくれる企業活動の積算」として示している。「基本価値」「情報価値」「周辺価値」という三つの価値の組み合わせとして考えて説明したものである。ブランドがメーカーだけ、そして、サービス業までのものではないことが理解できるのではないだろうか?


基本価値情報価値周辺価値
ビール
(飲料)
味、喉越し、などパッケージ、
広告内容など
販売店数、鮮度
など
洗濯機
(家電)
洗浄力、脱水力などデザイン、
企業イメージなど
省スペース、
サービス体制など
投信
(金融)
高利回り など広告内容、
企業信頼度など
アクセス条件、
販売員の応対など

・「基本価値」商品やサービスの根幹を成すものであり、消費者が真っ先に期待する価値を意味する。小売・流通業であれば、品揃えやその品質などが該当する。


・「情報価値」商品やサービスの持つ認知度やイメージなどが該当する。小売、流通業なら扱っている商品の品揃えの認知や店舗自体のイメージなどだ。FCビジネスでは広告が創るチェーン全体のイメージもここに該当する。


・「周辺価値」商品やサービスと直接関係ないが消費者が購買するに当たって重要だと思うものを示す。元来、提供する商品やサービスでの差別化が図りにくい小売・流通業ではまさにここが主戦場だが、店舗の立地・利便性や販売員の応対の質である。コンビニエンス・ストアはここに営業時間という価値を加えた業態なのである。

基本価値情報価値周辺価値
精肉業
(小売)
精肉の品質、品揃え商品認知、理解、店舗デザインなど販売者の対応、立地など
コンビニ
(小売)
商品、サービスの品揃えFC認知、店舗デザイン、広告イメージなど販売者の応対、営業時間など販売者の応対、営業時間など


■重要な一貫性
問題は「どうやったらブランドになっていくのか」である。【表】でも明らかなように三つの価値をそれぞれ高めれば良いのである。しかし、それに先立つ重要な要素がある。一貫性だ。ブランドはネーミングではなく、いくつもの価値を束ねる代名詞である。店舗名やチェーン名を聞いた時、どれほどの消費者が固有のイメージを持つことができるかが重要なのである。当然だが、そのためには普段からそういうモノの見方が要求される。

例えば、精肉店を考える。もし、このお店が「○○産の豚肉」には他のお店に負けない自信があったとする。その時、惣菜部門のコロッケにはこの肉が使われるべきだろう。POPには「男爵イモが美味しい」ではなく「○○産の豚肉を使っているから旨味が違う」と書けば、消費者にこの精肉店の特徴を理解してもらえ、これが「情報価値」となる。あとは「基本価値」の品質の良さが消費者の舌で確かめられれば、このお店はブランド化の一歩を踏み出したことになる。精肉店のサイドビジネスにもブランド化への要素があり、それを生かすためには訴えるべき価値の一貫性が大切である。


■スタートポイント
【表】で示すようにブランド価値には順序がある。常に「基本価値」から他の価値が派生することが望ましい。店舗内の装飾や統一したユニフォーム(=「情報価値」)や営業時間の延長(=「周辺価値」)も消費者にとって意味があるだろう。
しかし、ブランド化の順番は、精肉の品質や品揃えのどこに焦点を当てて差別化をするか(=「基本価値」)が最初であるべきだ。ブランド・マーケティングとは特別なテクニックでも何でもない。お店のブランド価値を高め、「ああ、あれを買うならあのお店ね」を成立させるための体系的な創意工夫なのである。

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