顧客の集中と分散のサイン

順調に立ち上がることの出来た起業家社長と話すことも多々あります。よく聞く嘆きとして「ウチは特定の得意先への依存度が高い、危険ではないか」。その気持ち分からないでもないです。切られたり、倒れたりされたら大打撃ですから。


でも、こういう嘆きもよく口に出ます。「ウチは小口の得意先ばかりで大型な取引先がない、効率が悪い」。もっともかもしれません。一件は一件なので手間は変わりませんから。こうやって相反する二つの悩みを聞くと、問題が「扱い規模×得意先数」ではないことに気が付きます。


■企業の視点


【1】大口の得意先に依存している場合。


気をつけなければいけないのは、その業務内容の多様性または質的変化の度合いです。もう少しやさしく言うと・・・


・業務内容が多様なのか、単一業務大量発注なのか=これによって自社の「頼られ度」が分かります。


前者は補完している関係、つまり、共生関係なので仕事が減っても部分的です。ですから、危険を察知しやすい。ところが後者はコスト重視の外注なので、他に安い会社が見つかれば一気に入れ替え、良くても合見積もりで価格ダウンは必至です。


・業務内容は日々変化しているのか、単なる反復なのか=これによって自社の「進化度」が分かります。


前者はそこに創意工夫が発生しているはずなので、ノウハウが溜まっています。よって、おいそれと他社と置き換えは難しい。しかし、後者は明らかに得意先側にノウハウが移行してしまって、自分たちだけで上手くやる、自分たちでコントロールできる価格の安いところを探す、といった危険性が高いと言えます。


【2】得意先が小口分散している場合


・業務メニューの中で最も件数の多いものがバックステージでのスケールメリットが効くか=コスト優位の可能性、または、A社の案件が他社B社に応用できるノウハウとして溜まっていく構造か=差別化優位が拡充の道筋(=弊社では差積化と称してます)があるかどうかです。


これらがないと営業が新たな小口案件を取ればとるほど利益が落ち、会社が疲弊していくという悪循環が待っています。


要は、静態(つまり得意先別売上構成比など)で課題を感じたら、そこで判断せず、動態(つまり動向や流れなど)から見直しましょう、ということです。


■個人の視点


では今度は、これを個人単位に当てはめてみましょう。多くの人々が所属している会社員は以下のような説明が出来ます。


売上が一部の得意先に集中している企業
→その極端なパターン
→一つのクライアントから全ての収入を得ている人たち
→会社員


つまり会社員は、「売上が一部に集中していて危険だ」と語る社長の悩み濃度を煮詰めた立場といえます。


ですから、先ほどの見立てに従えば、「自分のやっている仕事の中で、会社にとって未知の業務をどれだけ日々の仕事に取り込んでいるかどうか」が長生きできるキーポイントになります。同じ仕事の反復や、前任者の受け渡し業務をそのまま繰り返すことは、いつ何時、若い者や外注先(つまり、単価の安い方向)へ置き換わってもおかしくないのです。


クライアント(=勤務先)の知らない領域を自分で開拓しているかどうかが、危機の目安ということなのです。役職やら給与で自己評価などの静的な視点ではなく、働きの中身の変化度合いという動的な視点で真の健全さを測るべきなのです。


余談ながら、既存業務反復型の会社員を旦那様に持つ専業主婦の方は「得意先一社に依存している企業を唯一のクライアントにする会社」のようなものなので、その潜在的な経済リスクはかなり高いのではないでしょうか。


ただし、これはあくまでも経済リスクであって、生活を充実させるために時間を使うといったことは無視したものですので、その選択は個々の人生観が優先します。当然ですね。是非の条理はないのです。


2013.2.22
2007.1記載したものをリメイク

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