コンサルタントを生業にし続けられた理由について

場末の個人事務所のヤスハラが、この仕事を細く長く続けてこれたのは、ひとえにクライアント側からの引きです。以前にも書かせてもらいましたが、弊社はクライアントとのお付き合いが長いのが特徴だと思っております。


3ヶ月以上の仕事をしてきたクライアントを母数にすると、契約期間は一社平均が二年半ぐらいです。ですから、5年、10年というのも複数あります。「クライアントの皆様、ありがとうございます!」、で括ってしまうところを、少しだけその理由を掘ってみようかな、そんなお話です。


◾️理由その1


会社員時代はメーカー勤務の経験しかありません。コンサルティングは手探りで独学だったと言えます。まあ、コンサルタントとして手引書片手にしながら会議に臨むことは、あまりにも危険です。やはり、それなりのポリシーというか、スタイルは持っておりました。


それはインテグラル思考というものです。昨今「ティール型組織」が話題になっているようですが、その大元となっているのはアメリカの思想家ケン・ウィルバーのインテグラル思想です。


インテグラル思考は、その思想の方法論でして、かなり影響を受けました。特に、ファシリテーションをするときの基本的な態度はインテグラル思考がベースになるぐらい、心酔と援用をして今日まで来ております。


インテグラル思考の中心的な考えは非常にシンプルです。


「すべての意見は部分的に正しく、部分的に間違っている」という考え方です。


この考えの最も重要なところは「すべて」というところです。例えば、プロジェクトでファシリテーションをしているなら・・・・


Aさん「私は、戦略方針はXがいいと思います。なぜなら・・・」
Bさん「私は、戦略方針はYがいいと思います。なぜなら・・・」


通常、このXとYを比較しながら、新たな発想でZに行き着く弁証法的なアプローチが手筋となります。


じゃあ、プロジェクトメンバーとの会議中で、こんな場面ならどうしますか?


Aさん「私は、戦略方針はXがいいと思います。なぜなら・・・」
Bさん「私は、戦略方針はYがいいと思います。なぜなら・・・」
Cさん「すみません、通常業務があるので、この会議から早く抜けます」


Cさんの話は弁証法に引っかからないものとして扱われるのが普通でしょう。しかし、インテグラル思考ではこのCさんの意見も「部分的に正しく、部分的に間違っているもの」として同等に扱うのです。


確かに、Cさんの意見は課題階層が異なるので、変容させる必要があります。


「通常業務が、この会議より優先順位が高そうに見えますが、その理由はなんでしょうか?」


「CさんとCさんを取り巻く社内の関係者が、このプロジェクトが通常業務より優先順位が高いと認めるぐらいのゴールがあるとしたら、それはどんな感じが望ましいのでしょうか?」


「AさんとBさんは、Cさんが考える望ましいゴールイメージから見て、X、Yの戦略を変更するとしたら、どうしますか?」


「他の皆さんは、Cさんのプロジェクト参画の優先順位をあげることに貢献しながら、戦略X、Yを改定していくための運営アイデアがありませんか?」


まあ、思いついただけでもこんな質問を投げかけるのではないでしょうか。現場での言い回しはもっとくだけてますけどね。切実な話になれば、ユーモアも必要だし。ともかく、なんとか全意見を編み込むように「部分的に正しいを増やし、部分的に間違っているを減らす」動きをグループ全体の鼓動に増幅していくのです。


例示なので、ここでの登場人物は3人です。実際には、これが6だとか8だとかになりますから、意見の分散度合いは激しくなります。たぶん、無言のメンバーがいたなら、その無言さえも意見だとしたら、どう解釈するかを当人から引き出し、グループ内で扱う課題まで昇華させることになります。


はっきり言って、面倒臭いです。本当にかったるいです。だが、それが世間の縮図であり、社会のミニチュアではないかとも思えます。これはこれで世界をより正確に説明しているなら、プロジェクトのゴールに深さを与えてくれる誠実な道筋と信じているのです。


まぁ、こんなスタイルで仕事が継続したわけですからね。この構えはそれなりに有効だったのでしょう。当然、小生との相性もあるので、万人にオススメなわけではないですけど。こんな芸風が長生きできた理由の一つではないかと。


◾️理由その2


独立してこの方、コンサルとしてのちょっとしたポリシーではありますが、クライアント側から「先生」とよばないようにしてもらっております。お互い「さん」付けで呼ぶようにしてるのです。もちろん、目的はあります。お互いが対等であることが、突っ込んだやりとりにいけるということ。


二つに分解すると、自分が先生という名称を意識しすぎて、間違いを犯すことを恐れてしまうこと(コンサル側への影響)と、相手が先生であることを意識しすぎて、メンバーが自分の発言を丸めてしまうこと(クライアント側への影響)、です。


この話は昔からしていました。従って、小生もずーっと「先生と呼ばないで」の理由がここにあると思っておりました。しかし、最近・・・・どうも、真の目的はもっと奥の方にあったのだ!と気がつきました。


それは、「ユーモアの効きを良くするため」です。ユーモアは出し手と受け手の軽妙さで質の高さが決まるのです。お互いが対等な関係であることが強調されているなら、胸襟も開きがちというものです。


典型的な場面・・・


プロジェクトのファシリテーションをしていると、最終的には経営層へのプレゼンテーションという形になることが多いものです。外部のコンサルを雇っているような案件ですから、全社的な期待や好奇、時には嫉妬?、も集まっていたりします。最終提案に臨むメンバーのプレッシャーが高めになるのは無理からぬ話です。そんなプレゼン直前。緊張感がこちらにも伝わってくるような場面では、コンサルにできるようなことはもうありません。


そんな時・・・


「御社では、緊張すればするほど給料が上がるような給与体系でしたっけ?」なーんて軽口が、彼ら彼女らをちょっとニヤッとさせたりします。


で、笑ったことを確認してから・・・


「僕は、緊張は報酬の一部だと思ってるんですよ。それだけ重要な案件に関わっている証拠ですからね。緊張すればするほどコンサルの経験値が上がるなんて、いい商売でしょ?」なーんて箴言っぽさで、彼ら彼女らをもう一回ニヤっとさせるわけですな。


もうこれ以上、伝えられることはない状態から、もう一歩踏み込んで伝える技こそユーモアではないかと。そして、ユーモアの切れ味は内容が10%ぐらいで、掛け合いの妙が90%ではないかと思っております。掛け合える関わり合いが大切な職場では、「先生」という呼称はちょっと不粋なんですね。


これもまた生業が長続きしていることに、薄っすら影響していたのではないかと。


 ◾️理由その3


長期継続クライアントの存在の遠因でありながら、強力な説明力がある要素に、「ヤスハラはクセのある人に気に入られる」という特徴もありそうです。


ありそう、という言い回しには、断言するほど検証されたものではないという意味があります。ということで、ヨタ話程度に読み進めていただければと思います。


クセのある人って、どんな人でしょうかね? 仕事の能力というよりはコミュニケーションの特質を示してるようです。通常、「あの人はクセがある人ですね」などと言う時、ほぼほぼそう語る本人がコミュニケーションに手間取る相手を評していることが多いのです。


小生なりに定義すると「意思疎通の文脈が見えにくい人」ですかね。コミュニケーション自体が手強い人なら、別にスルーすればいいだけなんですけど、仕事上、権限がある・影響力がある・余人をもって代え難い人だったらそうはいきません。


会社という組織では、そういう人を巻き込んだり、巻き込まれたりすることで業務が進んでいくわけですから、「クセのある人ですね」では進展は望めないわけです。


一方で、「意思疎通の文脈が見えにくい人」がそれなりの組織のポジションにいるということは、仕事で結果が出せているということでもあります。決断力・直観力に優れた人が多かったりもします。そして、この周囲から「クセがある人」と思われていることもご本人は気がついています。


目端が効く才覚のある人であれば、そのぐらいの察しはついています。それどころか、レッテルを貼ってくる人々を「ピントの外れたもどかしい人」だと思っていたりします。もっとポイントをついて仕事をしてほしい、とか、気が利かないから気の利いたことができない人、などに見えるらしいのです。で、「クセのある人」からは「クセのある人だと指差す人」は「もどかしい人」と反定義されちゃうんですね。


さて、このように語るとヤスハラは「クセのある人」をサラサラっとさばいていくように聞こえますが、いやー小生も「クセのある人」は苦手なのです。「あー、この方と仕事をするのね。えらく、気苦労せにゃならんのね」なんて心の中で思うほどです。


むしろ、「クセのある人」との関係が得意なのではなく、意思疎通を一旦諦めてコミュニケ−ションしています。分かり合えないが前提なので、せめて分かりあう部分でお手伝いします、といった態度です。


クセさん「Xを実行にうつしたい」


ヤスハラ「Xの目的はなんでしょうか?」


クセさん「Qです」


ヤスハラ「目的がQであれば、XではなくYという手筋もありますが、いかがでしょうか?」


クセさん「いやYはここがダメです」


ヤスハラ「ということは目的はQではなく、Pというふうに設定したほうが、Xでなければいけない理由になりますが、いかがでしょうか?」


クセさん「わかった。目的はPで、Xを実施したいと思います」


ヤスハラ「しかし、目的をPにすると、Zも魅力的な実施案に見えますが、いかがでしょうか?」


クセさん「・・・・(ムッとしてくる)」
 ここで、クセさんの真の目的はXを実施したいという個人的な思いなことが判明する。


ヤスハラ「ともかくXを実施します。目的は整合性があるように並行作業でこちらが考えます」
即座に話題を最初に戻し、積極的に共犯関係を目指すことを宣言していく。


こんな感じ。感情的になる一歩手前で、クライアント側の衝動のようなものを確認します。文脈では理解できなくても、ピンポイントの願望が共有できればヨシとするわけですな。ここのデリケートなやりとりは、確かに瞬間芸のような部分はあるやもしれません。


業務上で信じていいのはそれ一点だけで、他は全て変更可能な状況にしておくという非論理的で、超合理的な態度で「クセのある人」に臨むのでした。そして、変更可能な部分は周囲の人々がその実行に整合性を感じるストーリーに組み立てるようにサポートしていくことになります。「クセのある人」にとっては優先順位が低いところだったりします。


組織的にキーマンでありながら「クセのある人」という人物像な方々にとっては、こういった業務の受け方ができるコンサルタントは重宝される傾向にあります。周囲との通訳であり、調整官であり、友人のような存在でもあるからです。会社内での友達は少ないし(プライベートの交友関係は別ですよ)w。


面白いのは、仕事のできる「クセのある人」と一緒に仕事をすると、決定スピードの速さ、修羅場での腹のくくり具合など、結構助けてもらうことが多くて、一度、信頼関係(共犯関係か?)が出来上がれば業務ストレスが少ないのでした。


きっと、こういう流れにお互いが効率性を感じて雇い・雇われの関係が長続きするのではと回顧しております。


◾️理由その4


ヤスハラ・マーケティング・オフィスの主な仕事は大きな会社の小さなプロジェクト。マーケティング系のプロジェクトですから商品開発、ブランド育成、マーケティング業務効率アップ、ブランド再活性化などと多岐に渡ります。


求められる仕事は、ファシリテーション&コンサルティング&カウンセリング&マネジメントです。プロジェクトメンバーが決まっていて、スケジュールも決まっていて、予算も決まっている。ゴールはコンセプト整理から、実施計画までというのが普通です。小さいプロジェクトといっても、求められるスケールは期待売り上げで言えば億以上の単位ですし、社内的な位置付けも高いことが多いいので、プレッシャーはそこそこあります。


そんな中で、ヤスハラは何を目標にしてプロジェクトを運営サポートするのか??? 売り上げ、利益、利益率、社内での話題性、スケジュール、経営者との人間関係・・・、まあ、コンサルによっていろいろ違うのではないかと思います。


実のところ、ヤスハラがコンサルとして第一目標に掲げているのが、プロジェクトメンバー全員が出世する、とういことなのです。秘密だよ(笑) クライアントにも言わないからね。正確には、言わなかったの過去形かな? ですから、今だから開陳してもいいかなっていう話です。


プロジェクトを通じてメンバーの社内的評価が上がる、次の魅力的な仕事のチャンスが増える、ダイレクトに役職が上がる、なのです。そのためにはプロジェクトは全社的にアピールできるsomething newが必須ですし、そこに驚きと共感も不可欠です。経営から求められるプロジェクトゴールは地味で手堅いものであっても、「うーん、面白そうだね」と唸らせる報告書・提案書・プレゼンテーションを目指すのです。


もちろん、当初に与えられたのプロジェクトの目標は規定課題としてきっちり対応しておいた上での話ですけど。ここは大切。約束を守った人間だけが、ちょっとオマケ話を語っても人に聞いてもらえるからです。メンバーが会社員であるなら出世して損な部分はありません。確かに、たまに出世を嫌がる人もいるけどね、まあ、こういったプロジェクトでは会わないし・・・笑。


特に大企業であればポジションと仕事の醍醐味は比例しますから、彼ら彼女らがプロジェクトを通じて、「あの手強い案件も君にやってもらったらいいかも」なーんて経営陣の誰かに思ってもらえるなら、これは素敵な報酬なのです。通常業務以外に時間を割いてまでプロジェクトをする意味があるというものです。モチベーションも上がるし、創意工夫もワンランク高めを狙うようになりますから、かなりいいところを突いている目標設定ではないかと。


よしんば、プロジェクトの提案がコケてもいいんです。「期待を超える意外な何かを予感させてくれる人」という強いスタンプは、提案の段階で上層部の頭の中に押されているからです。いや、もちろん失敗は嫌だけどさ。


むしろ、「なるほどなあ、間違ってないし、たぶん、誰がやってもこういう結論になるだろうなあ」・・・なんていう受け手側からのリアクションは最悪だと肝に銘じて業務受託をしているのです(していた)。たまに後日談として「誰々さんが昇進した」とか聞くと、自分のことのように嬉しいのです。自分はそういうヒエラルキー社会に背を向けたくせにね。


リピート受注を狙ってるわけではないのです。でも、結果としてヤスハラとともに仕事をするのが心地よいと感じるクライアントは増えていくわけですから、長くコンサルタントができた一因ではないかと振り返っております。


2018.8.28 近況報告より抜粋

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