ヤスハラ・マーケティング・オフィスの近況

03月29日

風強く、桜舞う水曜日です。


今週の月曜日は久しぶりに神保町へ行きました。
今回珍しく神保町に出向くきっかけとなったのは、そうです、ある古本を手に入れるために、でした。
絶版の「ユング思想の真髄」(林道義)を心理学の勉強会で薦められ、探した先が神保町の古本屋だったのです。好きな街なので、きっかけがあるだけで行く気充分なんですが、近年はネットで揃えてしまうので、足が遠のいています。


ちなみに、アマゾンではユーズドが二倍近い値段に対し、「日本の古本屋」で検索したら原価の一割引きでした。果たして、その価格セーブ分に投下エネルギーが見合っているかは怪しいところです。


■クラシックの基準

今、読んでいる本はユングCarl Gustav Jung(1875- 1961)とウィトゲンシュタインLudwig Wittgenstein( 1889-1951)に関するものです。


「ユング思想の真髄」(林道義 1998年)
「ウィトゲンシュタインはこう考えた」(鬼界彰夫 2003年)


ユングもウィトゲンシュタインも心理学界、哲学界のスターです。
象徴的なものとして、ユングと言えば共時性、ウィトゲンシュタインと言えば「語りえぬものには沈黙を」となるのではないでしょうか。


でも、こういった思想の巨頭たちの中身に関して、がっぷり四つに読み込んだ記憶はなく、いつも、ちょっとオシャレ気分で「ユングやウィトゲンシュタインを読んでいる自分って、どう?」という、表層さえも皮一枚めくらずに帰ってくるような情けない関係でした。


己の読解能力は一旦棚上げしても、こういう時代を築く思想はそれだけ深遠なはずで、素人がいきなりダイブしてタッチできるほど底は浅くないのです。よって、案内人が必要になります。


偉大な人物の案内人は、初期は紹介者です。日本では翻訳者がそれにあたります。山であれば、未知の山の存在を伝えることです。
中期は権威者です。学会などのアカデミックな人々による研究で、学術的世界へ組み込まれます。峻険な山に最初の登頂を目指す人々のための重装備な案内です。
後期以降はナビゲーターです。誰もがその難しい山に登れるように、分かりやすいルートを開拓し、歩き方を指南するような案内人です。


上記の二冊は、この後期案内人が書く案内書ではかなり高い評判のものです。
「いやー、やっと自分もあの山に登れそうだ」という感覚を与えてくれます。もちろん、時に分かりやすさは、その山の尊厳と相反する安易な解釈になりやすいので、案内人にもかなりのアカデミック・レベルが要求されます。


一般の我々にとっての優良な案内者が登場するには、どうも長い時間が必要となるようです。ユング、ウィトゲンシュタインも他界後、50年以上たってやっとこういったこなれた書籍となるところを見ると、ついに、彼らはクラシックの領域に入ったとも言えます。


ベートーベンやモーツァルトも、権威ある指揮者、楽団の演奏こそが卓越した解釈であるという教条主義的な時期を抜け、さまざまな指揮者による新たな解釈が表現のバリエーションと受け入れられるようになった頃、真のクラシックと呼べるように。


神保町の「さぼうる」に席を沈め、その日の得物をめくり、そんなことを感じ取りました。
このカフェもかなりクラシックです・・・(笑)。

03月26日

メインオフィスから眺める桜並木は三分咲きといったところです。
今週の内勤日は水曜を予定してます。きっと、仕事もそこそこにベランダからのお花見になることでしょう。


しかし、こうやって毎年、春の風物詩をのどかに語れるのも長くはないかもしれません。
ちょっと「いやーな予感」がする話を少々。


国の借金800兆円突破
今更ながら、誰が返すのかハッキリしない多額のお金が増え続けています。税収と行政支出のバランスが崩れたままです。


日本の食料自給率は40%ほど、先進国では最低
今更ながら、人が多すぎるのか、贅沢の果てに食べ物の廃棄が増えているのか、自前で食卓を用意する力は落ち続けています。自給自足のバランスは崩れたままです。


エネルギー自給率は、主要先進国(G7)の中でも最低の4%
今更ながら、経済成長が行き過ぎるのか、楽したがるのが日本人の性なのか、循環型とは縁遠いバランスの崩れ方です。


と、まあ、これからも桜の花びらは美しいまま咲き誇り続けるでしょうが、見る者も同じような心持でいられるかどうかは疑問です。


この「いやーな予感」が的中しないように、自分は何かできるかな、などと考えてしまうのも、春の穏やかさが有難く感じる頃になったからでしょうか。

03月22日

◆どうスケジュール帳をこねくり回しても、やはり今日しかないということで、意を決し、横浜美術館の長谷川潔展へ行きました。
かなりの混み具合ということは、土日は大変なことになるだろうと思われます。


横浜美術館には駒井哲郎も常設されているので、日本の銅版版画の主流派を一望で見渡せることになります。※これに浜口陽三で現代版画の三巨匠
浮世絵も版画ですから、ある意味、伝統芸能の系譜とも言えそうです。
人気が高いのも、そのせいではないでしょうか。


帰りは、乗り換え駅である田園調布で途中下車し、カフェにて沈思を嗜み、黙考に興じました。たまには美味いケーキも許されるでしょう。


◆今、考え抜こうとしているテーマが二つあります。
一つは、WEBでのマーケティングに消費者行動をどう組み込みかということです。
「意識ー行動」のフレームを基盤に、2WAYとなったコミュニケーション環境を説明するにはどうすれば良いか、そんなことを思索しています。


まずは、行動を「情報行動と購買行動」に区分けし、情報行動を「検索ー比較ー共有」と置いて見ます。これは、WEBで情報を探す行動、情報を比較検討する行動、購入後の意見をサイトに掲載し、共有する行動、の三つに細分化されます。
対して、既に区分けされた購買行動は「トライアル・ユースーリピート・ユースーロイヤル・ユース」となるわけです。
あとは、意識サイドですが、「認知ー理解ー好意」に加えて、何らかの類別が進められると想定しています。
これは、マーケティング・コンサルタントとしての直観です。
現行が1WAYコミュニケーションベースで「意識ー行動」フレームを6区分しているので、2WAYになれば倍の12区分で説明が可能と睨んでいるからです。


ただ、複雑になっていくのが精神衛生上、許しがたいところですね。セミナーまではOKですが、ビジネス現場ではまどろっこしさが露呈して来るからです。
もっと、シンプルにできるかどうかは自分の思弁力にかかっています。


◆さて、もう一つのテーマは、インテグラル心理学をビジネスに応用するというものです。参加している勉強会の発表がまわって来たことを機会に、頭を絞っています。
ビジネス現場から乖離しない課題をと考慮し続け、「意思決定の会議が行き詰まるパターンを類型化し、それぞれ心理学サイドのメソッドで、何が足りないかを解説する」というお題に行き着きました。
まあ、プロト品なので、勉強会をテスト・マーケティングと捉え、厳しい洗礼を浴びてこようと思っています。


ケーキにフォークを突き刺しながら、そんなことに糖分を費やしました。

03月18日

今週は新たな人々と会うことが仕事でした。
物理的に人と会話すれば、天気の話から生き方の話しまで、仕事以外の情報も入ってきます。


きっと、そういったその場では必要ない、一見すればノイズのような情報が知らず知らずに溜まっていくことで、来る日の有意義なシグナルに発酵するのだと思っています。


人との出会いは心の蔵への仕込みのようなものです。樽の嵩はかなり増したのではないでしょうか。


■シンデレラマンと表現作法


いろんな人たちから「いいよ、この映画」と言われていたので、シンデレラマンをレンタルで観賞しました。
なるほど、脚本と演出がかなり高度に計算されているのが、その評価のようです。


途中で思い出したのは、会社員時代、広告担当(TV-CF製作のオリエンから納品までをマーケティングの観点から管理するレアな職業)を担っていた頃に、某大手広告代理店に勤める評判のクリエイティブ・ディレクター(広告制作全体を総指揮するメジャーな職業)から「食品が広告で『おいしいです』と言ったら負けです」ということを教えてもらったことです。


自分の買ってもらいたい商品を「いいです」「すごいです」と言葉で自画自賛することは身もふたもないだけでなく、はしたない作法だということです。クリエイターでなくても出来る稚拙な表現を忌み嫌うことこそ、クリエイターの貞節だと言えましょう。


だからこそ、言いたくて仕方のない、喉の先、舌の上まで来ていることも、敢えて言わず。その立ち振る舞いのみで、受け手に忖度させたいわけです。


映画「シンデレラマン」は、貧しさと戦う主人公(ラッセル・クロウ)が物語の後半までは、その極貧への苦悩をすべて態度や行動で示していきます。この「貧困は不幸である」ということを、言葉での直截な表現抜きに伝え続けるのです。


それが故に、クライマックスで主人公が挑戦者として、何人もリングで相手を死亡させたチャンピョンと戦うかどうかをコミッショナーから尋ねられ、「貧乏で死ぬことよりは戦うことを選ぶ」といった発言が、見る者に深い共感を与えるのです。「そうだ、そうだ、その選択こそが正しい」と画面を越え、視聴者に揺ぎ無い納得が飛び込んでくるのです。


いいたいことを言わずに、いいたいことを伝える。いいたいことを伝えるだけでなく、いいたいことに共感を与える。優れたクリエイターが「おいしい」と言わせない表現を心がけることこそ、既に「おいしさ」を効果的に伝えるための基本作法なのです。


そんなことを思い浮かべさせてくれた映画でした。

03月13日

月曜日は内勤日で、もろもろの業務やら作業やら総務などをこなしております。来週のJMAでのセミナーのテキストもバージョンアップ中です。


2006年の第一四半期(1月ー3月)もそろそろ終わり、残すところあと3四半期となりました。(ちょっと大げさ・・・笑)仕事の内容も新しいテーマが次から次へと発生し、キャリアをストレッチさせなければ追いつかない様相を呈しています。不思議ですね。きっと、これが当初予測していた大きな流れに向かう緩いカーブなのでしょうか。


仕事の新規発生についても、この三ヶ月は知人や既存の得意先通じてのご紹介パターンが集中して起きています。数的には、6人の方を通じて8案件のお話にまでになっています。もちろん、これらが全部、受託とはなりませんが、ちょっと今までにはなかった状況です。これも、何か新しいステージを歩み始めている兆候とも読めます。


渋谷サテライトも本格稼動(?)して3ヵ月です。個人で回していながら新橋サテライトと二箇所もあってどうなるのかと、我ながら訝(いぶか)しげに思っていましたが、なかなか良いです。


どこが「良い」かというと、近くに来たからぶらりと立ち寄り、そこで一息つきながらPCを打ったり、書類を読み込んだり、たまに周囲との雑談など、思いつき感覚で作業場所を選べる「和み(なごみ)」が有難いのです。


また、新橋と渋谷、それぞれの近傍で人種が異なるのも刺激になるようです。行きかう人の服装は180度違いますから、場からもらうメッセージもそうやって比較すると時世の意味となって落ちてくるようです。


こうなると、メッセージ性のある場所にサテライトがもう一つあってもよいかと欲がもたげてきます。新橋=会社員生態観察エリア、渋谷=若年層生態観察エリア、とすると・・・、次は巣鴨かな?


03月09日

「ブログ、よく更新されてますね」、全く別の場面で3人の方から立て続けにそう言われ、「一週間に何とか二回は書き込みたいものだ」という寝ぼけた態度もそろそろ改めねば、そう誓ったのも一瞬で、今日ここに至っています。


◆WEB活用の最新情報を定期的に学ぶために、WEBコンサルティング社長から個人レッスンを月一回受講することにしました。あらかじめ、こちらから深めたい項目をリストアップし、それをベースに質疑応答を二時間ほどするというものです。


情報量の多さ&スピードを両立して咀嚼できないので、いっそ、集中講座というわけです。火曜日に第一回を実施し、来月もスケジュール化しました。


一方で、公開されているWEBの研究会なども探しています。こちらは、広がりを求めるほうですね。


JMAマーケティング総合大会でのコーディネーターが無事、終了しました。
関係各位の皆々様、お疲れ様でした。そして、いろいろ勉強させていただき、有難うございました。味の素株式会社のN氏からの発表の中で、「今後はイントラ・ブログに注目している」(=イントラネット内での社員個人のブログを社員全員が活用する)との紹介がありました。


世界規模で展開している会社では、一人の社員が最小単位になって、情報を求めたり、提供したりの関係になるのが普通の姿になるだろうということです。時差も気にならずというのが、またいいです。


これはSNS(=ソーシャル・ネットワーキング・サイト)のテーマ別コミュニティと同じと言えます。収益モデルを要求されない分、企業での活用の方が加速度は早いかもしれません。
 

◆実は、公開WEB研究会をいろいろ物色していたところ、最も自分の意図に合ったものが広告主協会主催のWEB広告研究会ではないかという結論に行き着きつつありました。何のことはない、昔、会社員時代に大いにお世話になった組織の新研究会です。


偶然なのか、導かれてなのか、味の素のN氏はここの代表幹事であらせられたのです(いきなり無茶な敬語・・・笑)。「渡りに船」どころか、「船着場を尋ねたら船頭さんだった」でしょうか。さっそく、入会させていただきました。今後ともよろしくお願いします。

03月03日

ご縁あって、松下グループのショールームにお邪魔することになりました。
アテンダント付の拝観で至極恐縮しました。多くを学ばせていただき、深く感謝いたします。


■ショールームというメディア


東京には大型のショールームが二箇所あります。汐留にあるナショナル・センター、有明にあるパナソニック・センターです。ショールームという響きは、ちょっと「いまだに感」があります。情報を取るならWEBでいいですし、商品は大型店舗で他社商品と見比べも出来ます。そういう中において、典型的逆張りな存在です。


松下グループは、松下電器と松下電工両社の融合を進めてますが、それを括りながら未来を語るものとして「ユビキタス・ネットワーク&エコロジー&ユニバーサルデザイン」を掲げています。


大きな企業になればなるほど抽象度の高いビジョンになるのは必然として、こういったものをショールームで見せる、伝える、共感させるとなると、その難易度も比例してしまうものですが、細部の気配りでそれを救っています。関わっている人全員が本気なんだな、そう思いました。


ショールームはこんなものですね、ではなく、ショールームだからこそ、ここまで出来ます、なのです。極めようとする意志が床や壁に漂っているのが分かります。


汐留のナショナル・センターの核はリフォームで、一言でまとめると「今日の生活を進化させる」です。地下の住宅部材コーナーは雨の平日昼間にも関わらず、かなりの集客です。非常に現実的な世界から、地上フロアへ移ると少し贅沢したリフォーム・コーナーとなり、「ちょっと無理してウチもする?」と家族の誰かに語らせるような単価アップのための急所を突いてきます(笑)。


有明のパナソニック・センターは、前からあそこにあるなあ、と知りながらも行く機会のなかった場所で、その規模はショールームのそれを超えています。こちらは「明日の生活を革新させる」がテーマに見えます。どれもが未来からの逆算によって展示されています。


言葉では簡単ですが、日々内容が入れ替わるので現場は大変なようです。古いメディアと思われがちなショールームも逆手に取るとこうなるという一つの形でしょう。


ここは「松下グループの迎賓館」と呼ばれているそうで、国賓などのVIPのお立ち寄りも多いそうです。また、両方のセンターともに4ヶ国語(日本語、ハングル語、北京語、英語)表示と、それらに堪能なアテンダントが揃っていて、その日も、自分の前はスイスのビジネス・スクールから来日したグループでした。フィジカルに世界への情報発信拠点になっています。


ここまで来るとショールームという表記はいかがかなと思うほどで、一社万博パビリオンなんていうのはどうでしょうか?(センスないです・・・ご容赦を)


これは画家が肖像画のために存在していた時代が、カメラの出現によって芸術家へ進化を余儀なくされたり、大量消費社会が到来するとデザイナーとして必要とされるようになる、といった現象を彷彿とさせます。


WEBが我々の生活を変えるだけでなく、こういったオーソドックスなメディアの役割も確実に変えています。でも、変えられる側なのではなく、変える側にいるということが要諦です。「メディアはメッセージ」(マクルーハン)ですが、メッセンジャーはメディアの種類には依存しないのです。


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