着流し教務日誌
■2月8日前日
大分県の別府へ入る。立命館アジア太平洋大学(APU)での消費者行動論も今年で五回目である。通期で五週間分の逗留となる。
今年の宿は海岸沿いのホテルで、屋上に露天風呂のある、温泉とビジネス・ホテルを強引に合体させたハイ・ブリッドな宿泊施設だ。形式は問うまい。なぜなら、この温泉こそが一週間集中授業へのモチベーションという、温泉動力で起動するエコ体質なのである。
しかし、別府温泉エリアは汲み上げのし過ぎでお湯枯渇の兆候もあるらしい。ガス欠の日も来るのだろうか。こちらも、1週間オフィス業務を停止するので、この反動がキツイ。温泉のない東京でガソリン不足が懸念されるということはお互い様か。
■2月9日講義初日
朝の露天風呂を一日の始まりとする。
日差しが暖かく、関東人の持つ九州イメージに近い。まあ、去年が寒すぎだった。久々のキャンパスは空気も良く、さわやかで一日目にふさわしい。
今回の履修者人数88名だが、実質20%減の経験則に従うように70名でスタートする。
いきなりグループワーク、そして引き続きグループワーク、〆はグループワーク、結局全てグループワークという進行である。まあ、例年そうなのだ。慣れてもらうまでに時間がかかるようだが、座学なんぞをする気は微塵もない。
グループは誕生日、学籍番号、血液型などあらゆる記号でメンバーをシャッフルし、初対面での討議を促進させる。男女半々の履修ということは、バレンタイン・ウイークにもふさわしかろう。
■2月10日講義二日目
消費者行動モデルの分解とモデル別の特徴を解説するのが主なテーマとなる。世間ではAIDMA,AISAS,AIDEESなど百花繚乱の趣がある。平たく言えば、散らかっている訳であるが、本質をつかめばどんなバリエーションもさっとさばけるようになるだろう。昨今の知識過剰状況で重要なのは知識圧縮力だ。片付け上手を目指して欲しい。
夕飯はホテル近くの中華料理店へ出向く。1200円で食べ放題をいいことに、元を取ろうとあれやこれや食い散らかす。だが、胃袋膨張力に抗しきれず、薬局で胃薬を購入したため、高いバイキングとなる。食事行動モデルの修正必須である。
■2月11日講義三日目
祭日であるが講師営業日である。今年の生徒の印象は能力のバラツキがあることだが、平均のレベルは高めである。例年は留学生が引っ張る形だが、今年は見られず、全般的に知的好奇心が高いことで成立していく感じがする。
携帯電話キャリア別のグループに区分けしてのフォーカスインタビューを実施する。生徒にグループを括るための意識特性要因を発見してもらうためのセッションである。ついでながら、携帯電話の急激なコモディティ化を痛感する。
夜は恒例のさかえ寿司へお邪魔し、大将に年に一度のご挨拶を果たす。鮭のケイジ(鮭児)なるものを握ってもらう。相変わらず関サバが旨い。
■2月12日講義四日目
本日のテーマは「ブランドと消費者行動」である。果たして、企業のブランド強化の動きは消費者行動にどのような影響を及ぼすかについての考察をグループワークする。示唆に富む意見がいくつか出てきたのは、大学生ならではの視点のせいか。マーケティング業務という専業に埋没した世界を広げてくれるのが有り難い。
この日の夜はAPUのOBで過去に消費者行動論を受講したHさんとの会食である。地域再活性化のプロジェクトで働いている話を伺う。この地域再活性化というテーマは世界共通のものだそうで、最も進んでいる国がイギリスだそうだ。没落の度合いが高いエリアほど地域再活性化のノウハウや事例が多様にあるらしい。大英帝国であればうなずける。
そして、日本では別府が最先端の地区とのことだった。没落の幅が群を抜いているのだろう。先進国では都市への集中化によって、大なり小なり衰退してしまった地域が存在している。そういう意味では別府は没落からの復興という世界的な流行を体感できる場所と言える。うらぶれたシャッター街が誇らしげに見えるのは気のせいだろうか、間違いなく気のせいだろう。
地元の人でなければ到底入ることのない店構えの焼き鳥屋の後は、和風チャンポンなるものを紹介してもらう。お好み焼屋さんが作る焼きそばをラーメンにする人気メニューだ。焼きおにぎり茶漬けのような、そばの焦げ目とスープの相性が素晴らしい。
二次会はこれまたOBのIさんがオーナーのバー、ミューへ行く。今回はビジネスの話に終始する。それにしても大分の雇用情勢は急激に変化している。キツイ話の合間をすり抜けるように、ここで新たな商機を見つけようというIさんのセンスに思わず唸る。
■2月13日講義五日目
最終日である。知覚品質と体感品質のギャップについて、自分たちがいるAPUを商品として語ってもらう。昔より一方的な愚痴が少なく、建設的な発言が主流なのにちょっと驚く。ガス抜きセッションになるかもという危惧(期待?)は気持ちよく裏切られることとなった。卒業生も増え、体感品質に関するユーザーの声がフィードバックされるようになったのだろう。その結果、知覚品質の方も誤解・曲解が減ることになり、大学への満足度は徐々に高まっているようだ。
そして、最後のコマは試験となる。今年も「危険物並びに飲食物以外はすべて持ち込み可」としている。何持ち込んでも役に立たないような試験にしてある、とも言える。脳ミソ品質がポイントなのである。足りない分は回転数でギャップを埋めてほしい。
夜は有志の生徒9名と別府駅近くの居酒屋で懇親会となる。平成生まれの生徒がいることに軽く時代を感じる。来年から就活の人たちもいたので、昨今の状況をどのように見ているか意見交換をする。こちらからも仕事観や生き様論などを提供させていただくが、説教になってないことを祈る。いずれにせよ、こういう機会が与えられていることに感謝である。
今回の講座でも生徒にボランティアで事務局をやってもらっている。この一人であるY嬢が酒豪で、酒に詳しいだけでなく、飲み方の指南もする。自動的に芋焼酎の集中講義が始まる。体験型学習が基本なようで、次の銘柄、次の銘柄とロックでガンガン飲むことになる。
翌日、這うように帰京するはめとなるのだが、この熱血授業の間、そのことに気がつくことはなかった。
2009年の着流し教務旅はこれにて終了
うう、ちと酒が残っております(笑)。