ヤスハラ・マーケティング・オフィスの近況

06月02日

ここ数日、住んでいる長野県の松本市では、郊外への松枯れ対策としての農薬の空中散布実施計画で大騒ぎになっております。


■「誤り(あやまり)」より「偽り(いつわり)」の業が深いというお話


空からまかれる予定の農薬は、マツグリーン2というネオニコチノイド系農薬(有効成分アセタミプリド)です。ネオニコチノイド系農薬は、ヒトの脳に対する発達神経毒性による胎児・小児への悪影響(特に発達障害)、神経毒性筋疾患の増加との関連性が疑われているようです。対象地区が住宅地や温泉などの観光エリアに近いということもあり、、地元の新聞でも取り上げられたりして、ますます騒乱は大きくなる様相です。


さて、このようになってくると収拾ができるのか、妥協ができるのか、強行で終わるのかなど、興味のあるところですが(まあ、子供のいる地元民としてはメタでいるのは難しいところではあるが)、これも良い社会的な課題だと見なせば、いくつか考えどころはあるかなと思っております。こじれかたが意外とよくあるパターンだったりするので。


当事者別にみていくと・・・・


①松枯れ対策を望む山林所有の人々
山林といっても松本市の場合は住宅地に近い郊外であり、普段、車で走っていても茶色に枯れ果てた松が見れます。どうするか? 「松を守る」→「山を守る」→「山と人の良好な関係を守る」、といった課題のレイヤーが存在しますが、今回は初期課題の「松を守る」という設定で進んでいます。ただし、農薬を使うのは目的ではない。


②農薬の空中散布に反対する人々
近隣の学校、観光産業にとって、評価の定まってない農薬の空中散布は必要かどうかが見えない。どうするか? 「子供を守る」→「子供の住む環境を守る」→「山と人の良好な関係を守る」、といった課題のレイヤーでいけば、今回の初期課題の「子供を守る」という設定からも松枯れとは接点を見いだせるものです。つまり、松がどうなっても構わない、という訳ではない。


③農薬の空中散布を推進する人々
松本市の行政(長野県も関わっているようですけど)にとって、他事例もある農薬の空中散布は効果があると考えている。でも一方で、「効果的に松枯れを解決する」→「効果的に美しい山林を取り戻す」→「効果的に山と人の良好な関係を取り戻す」、という課題レイヤーも存在します。まあ、時間とお金の制約があるのが行政なので、手っ取り早い課題設定という気持ちも分かるが。


さて、この3者を眺めた時、今回のケースでもっとも『?』な課題設定をしているところはどれか?、というと③の松本市行政かなと思っております。まず①、②は、どちらの選択行動になったとしても、結果がうまくいかなかった時に(方向A「農薬で健康被害」、方向B「松枯れの拡大」)反省が効きます。(授業料が高くつくことはさておき)


コンサルのような仕事をしていると、「正誤の問題」は実はそれほど問題ではないのです。よしんば、誤った選択をしたとしても、気付きさえすればOK。だって、次のより良い一手のための学びだとも言えるし。許せる範囲の動きなのです。


しかし、3番目の松本市の行政は組織としてはちょっとマズイ動きです。なぜかというと、松本市は「健康延命都市」を宣言して、「世界健康首都会議」なるものを定期的に開くような原理原則を行動規範として掲げているからです。


事が揉めている時、正誤の話は慎重に考えることで「覚悟のつく最善手」に行き着けます。誰だって間違いは犯します。私もあなたも。学びのあるミスなら、次の動きで良い方向へ向かうことができます(繰り返しますが、授業料の多寡は不問として)。でも、原理原則が歪められている時、これは平たく言うと「嘘をついている」状態です。偽りは時間とともに根が深くなりやすいのです。


こういった矛盾した動きはちょっとでも始めてしまうと、自己正当化のために嘘が嘘を呼ぶのです。私も含め、誰もが自分の嘘を守るために新たな嘘を吐くような行動をとった経験があるはずです。そうです、メチャ、エネルギーを使うのです! それも、より良い方向ではなく、より徒労な方向に向かってしまうのです。


コンサルなら、ダブル・スタンダードの組織には「御社はダブル・スタンダードになってますが、そうしなければならない理由がありますか?」と切り込んでいく場面ですなw。


医療の世界では、疑わしき薬は使用を避けるという原則があります。「健康延命都市」「世界健康首都」の大上段に構えた原理原則があるとするなら、この行政自身の動きはどうなのかと考えると、いやな予感が・・・。たぶん、嘘を守るために嘘をつく負のエネルギーサイクルが待っている気がしますね。業が深いのです。


まあ、最近ではあっちの大企業(あえて名前を伏せる)やら、こっちの国家(あえて名前を伏せる)など、規模の大きい組織はこぞって反原理原則な状態ので、目新しいことでもありません。「そして、ここにも一つ」程度の話ではあります。


※追記
ヤスハラの知人友人の方々へ:
ということで、強行実施が予定されている6月中盤から7月いっぱいは長野の松本に子供連れで観光するのは控えられた方が良さそうです。(あっ、知人・友人じゃなきゃどうでもいいっていう意味ではありませんw。たまたま、これを眺めている貴方も含めてね) 


それと、城好きのキッズたちへ「大丈夫! 松本城はまだまだずーっとあるから」


※追記その2
6月29日現在。空中散布は延期となりました。7月中に実施は変わらずという行政側と、差し止め訴訟を行う反対住民側との対立に進展しています。どうなることやら。


松本市(長野県も)には、第三の手法「農薬散布をしない松枯れ対応で山の再生」プログラムの開発を期待しますけど。松本モデル。もしできたら、日本全国どころか、世界的な先端山再生都市じゃないですか。


こういうのはチャンスでもあるのです。ひと昔、自動車業界が排気ガスを撒き散らす悪玉業界のラベルを貼られてた時に、トヨタがプリウスを世界に先駆けて市場導入して一気に環境フレンドリー会社っぽいポジションを獲得したようにね。

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